ポトスライムの舟
津村記久子/著 講談社 1,365円(税込)
29歳(女)独身・母と2人暮らし。工場のライン仕事の契約社員である長瀬由紀子は、自分の腕に刺青を入れたいと考えている。
入れる言葉は「今がいちばんの働き盛り」。
冒頭のこのエピソードがとても効いていて、うまい。
ナガセは、労働や時間を金で切り売りするように感じられる現代の窮屈な社会の中で、確かに生きている29歳の女性だ。
ストーリー紹介
お金がなくても、思いっきり無理をしなくても、夢は毎日育ててゆける。契約社員ナガセ29歳、彼女の目標は、自分の年収と同じ世界一周旅行の費用を貯めること、総額163万円。ナガセ同様、現代に浮遊する女性が描かれる。利己的な消費活動にしか興味のない夫と別れ、子供を抱えて奔走するりつ子・自分の店を持ち淡々と店をまわしながらも、一人身の自由を満喫するヨシカ・資格を取りながらも大学卒業後スピード結婚し、家庭内のルールが全てになってしまったそよ乃。
30歳女性の心理を見事に描く、第140回芥川賞受賞作。
表題の‘ポトスライム’とは観葉植物。サトイモ科、エピプレナム属。南太平洋ソロモン諸島原産、和名オウゴンカズラ(黄金蔓)。
室内のグリーンインテリアとして最もポピュラーであり、姿が美しい。あまり明るくないところにも耐え強健な植物であるが、食べると紫陽花同様『毒』となる植物でもある。
ありふれているのに実用性のないポトスライムと、ナガセの生きることに対する空虚さが、イメージとなって重なり合ってゆく。
ラストにおける彼女のひとつの選択は芥川賞の選評でも意見を二分していたが、同い年で同時代を生きる私個人にとっては、とても救われるものであった。
ひとりの人間の「生」を切り取るのがフィクションの役割だと思うが、著者の筆力は確かで、主人公たちに寄り添うように安心して読める。
今後も、期待して作品を待ちたい。
2009,2,24 長女 |